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検証ほつまつたゑ126号 つぐむの宿

検証ほつまつたゑ126号の表紙検証ほつまつたゑ

検証ほつまつたゑ

ホツマツタヱ研究の専門同人誌・
『検証ほつまつたゑ よみがえる縄文叙事詩』

第126号(令和5年4月号)に
掲載していただきました!

本当にいつも
ありがとうございます🥰

今回は、
ホツマツタヱをもとにした
『小説』を投稿しました。

天照大神の弟・
ソサノヲ

ヒカワ(のちの出雲)に
隠れ住む弓削(ゆげ)・
ツルメソ

出会いの場面を
描いてみました。

検証ほつまつたゑ126号への掲載文

(※当ブログでは掲載にあたり
やや改訂したものを投稿しています)

『つぐむの宿』

《ホツマツタヱ 異文小説》

1 朝露

 朝露が、髭をつたって首筋をなめる。
 わずかに顔をひき攣らせて男は目を覚ました。
 眠っていたのか、気を失っていたのかよくわからない。

 夢であればいいのにというような記憶がよみがえると、
もう幾年もおさまらない頭の痛みが男を襲った。

 うう、と声をあげて身をよじる。
 すると、柔らかな感触が返ってきた。
 床には草のむしろが敷いてあり、毛皮のふすままで掛けてあるらしい。
 まともな寝床など、いつぶりだろう?

 荒れ屋である。
 梁もやたらに低く、狭い。

 むせ返るほどの臭いが鼻をつくのは、髭や髪、擦りきれた衣服や身体に、泥や脂や虫がこびりついているからだ。

 男から一間ほど離れて、背を向けて座っている者がある。
 腰巻きひとつで、木削りにつとめていた。
 よくみると、手足が欠けている。

 左腕は肩からなくなり、右足は膝からなくなっていた。
 膝下には木の棒があてがわれ、足の代わりとされていた。
 片足で材をとどめて、片腕でひたすらに刃をふるっている。

 壁には棚がしつらえてあり、木の器や匙などがならんでいた。
 となりには、美しくしなう弓幹ゆがらが立てかけられている。
 1本1本に鳥の羽がついた矢は、ゆきにおさまっていた。

 男は寝床から飛びだすと、勢いのまま片腕の男を踏みつける。
 そうして、ゆきより矢をひき抜いて矢尻を突きつけた。

「言え! どこのものだ!」

 しかし、片腕の男は驚くわけでも恐れるわけでもなく、
見つめ返しただけだった。

「言え! こたえろ! 言え! 言え!」

 踏みつける足に力がはいる。
 息をしぼり出せば、すこしは話す気になるやもしれぬ。
 聞く耳を持たぬのなら、聞くまでつづければよい。
 思い通りにならぬ世のことごとに、男ははげしく苛立っていた。

『だら、しちやかましい』

 かん高い声とともに戸口の簾がめくれて、七、八ほどの娘が、
編み籠をさげてあらわれる。

「オロチが来ちょうけね。見つかったら、えけんわ」

 籠をおろすと娘は、男の鼻面まで近づいて

テテは口がきけん。手も足もねえ。なして、おぞけるかね」

といった。

「恐れてなどいない!」

 年端もゆかぬ娘の、物怖じしない態度にうろたえつつ

「お前たちは、ハタレではないのか?」

 男がたずねると、娘は

「わしやち、ソシモリだが。それ、そろっと来ねい」

 といって、戸口まで戻るとすだれのはしをめくった。
 男は惑うも、踏みつけていた足をおさめて片腕の男を放してやる。
 そうして、娘につづいて外を覗きこんだ。

 驚いたことに、荒れ家は木の上に築かれていた。
 見つからないよう、壁は木の葉や枝で覆われている。
 いったいどうやって自分をここまで運んだのだろう。
 そう思っていると、娘がそっと指をさす。

 木の幹に、太い縄蔓と筏がくくりつけてあった。
 これを使って荷をひき上げるようだ。

 土を蹴る蹄の音がいくつか近づいてきて、
荒れ屋を支える木の下で止まった。

 剣を佩き、弓を携えた武人たち、オロチの一団である。

『兎がいたように思ったが』
『見失ったか? お前の目はあてにならん』
『それにしても、ここは臭うな』
『どこかで獣が腐っているのだろう』
『ええい、たまらん』

 オロチたちはまた馬を駆けて遠ざかってゆく。
 気が抜けて、男が息をはくと、娘の肩が震えている。
 どうした、と声をかける間もなく

「わーが臭ぇて、助かったわ」

 娘が笑いだした。
 男はすこし面食らって

「おれは、臭くて褒められたのか」

 と返すと、娘はますます笑いが止まらなくなる。
 片腕の男をみれば、何事もなかったように木削りに戻っている。
 老けてみえるのは、顔にふかい皺が刻まれているせいだろう。

「お前たち、名は何という?」
「名かね? 弓削(ゆげ)のツルメソといわれちょうわ」

 里におりて弓矢や木器をすすめるさい
『弦を召しょう』と声をあげることから、父娘は
『ツルメソ(弦召)』といわれているそうだ。そこには、
娘を連れ歩く[連女添(ツルメソ)]の意味もあるのだろう。

「わーにも名があーかや?」
「おれはソサの生まれだ」
「ソサノヲ[ソサ出身の男]かね。ええ名だの」

 男は娘を気に入りはじめていた。
 やつれ果てた姿にも、ためらうことなく接するその素直さに――
 ソサノヲは心打たれていた。

「ならば、お前のことは『スセリ』と呼ぼう」
「すせり? こーのことかね?」

 娘は編み籠をもちあげた。
 そこには、摘みとってきたすせりの葉があふれていた。

2 熊

 ツルメソの荒れ屋にとどまり、半月ほどが経った。

 流離さすらいの身となったソサノヲには、はじめての宿であった。
 世間との交わりを断たれたソサノヲは、雨風をしのぐ宿どころか、食べるものも、着るものもままならない。それこそ、獣のように地をはって生きるしかなかった。

 流離い者には、それとわかるしるしが刻まれる。
 流離い者に手を貸すこともまた、のりに背くこととなる。
 だから、ひとびとも流れ者に関わろうとはしない。

 けれども、ツルメソ父娘は違った。

 へき地に暮らして里を守る『ソシモリ』とは名ばかりで、
村を追いだされたあぶれ者のことでもある。
 互いに似たものを感じたからこそ、助けたのかもしれない。

 狭い隠れ処であるから、ソサノヲはまず川へ連れてゆかれた。
 身体にこびりついた汚れを落とすためである。
 スセリはここでも、けたけたと笑っていた。

「わーの臭いで、獣が逃げちょうわ。熊のようだがね」
「クマか……」

 ソサノヲにとってこの言葉は重たい響きをもっている。
 それは『世の理からはずれた暗きもの』のことである。
 ソサノヲ自身も母の『クマ』から生まれたといわれていた。
 そして、その『クマ』によって母を失っていた。

「水に流したら、人なみになーわ」

 スセリは水を蹴りあげて、ソサノヲのくもった顔に浴びせかける。
 すると、また大きく口を開けて笑った。
 
 五日目には、里村に連れてゆかれた。
 里におりるときは、顔に布をまくのが習わしらしい。
 ソサノヲもおなじく布をまく。

 とはいえ、流離い者だということはしるしでわかってしまう。
 ただ、あたりはハタレ[反乱軍]の領地となっているので、
流れ者もおおいらしく、騒がれることはなかった。

 村々をまわって弓弦や木器を渡し、かわりに作物をいただく。
 弓は村で使われるだけでなく、オロチにも流れるらしい。

 ツルメソは歩みがはやい。
 杖をつき、荷を担いでいるが、ソサノヲが遅れるほどだった。

 ツルメソにつづいて歩いていると、
村人はツルメソを遠くにみやり、頭を垂れていた。

 すこしばかり父娘に遅れたところ、
荷を受けとった老いた村人から、ふと手をひかれた。

「あのかたは、わしやちのかみでございした。
オロチに追われて、妻を亡うしても、わしやちを援けてごはっしゃる。
どうか、ようしてごしなはい」

 そういうと手を離して、ふかく頭を下げた。
 そんなまなざしは、その後もずっと父娘にそそがれていた。

 その日、スセリが山菜を採りに出たあと、
木削りにつとめるツルメソにソサノヲはつめよった。

「悔しくはないのか?」

 もちろん、言葉が返ってくることはない。
 わかってはいるけれど、心の内を目の奥にみたいと思った。

「妻の仇を討って、この地を守りたいとは思わんのか?」

 ソサノヲの問いかけにも、やはりツルメソはなんの色も返さない。

「おれは、いつかおれの正しさを示したい。
それが母への弔いにもなると、おれは信じている」

 ソサノヲをふたたび、頭の痛みがおそう。

 母・イサナミは田畑を広げるため、
山焼きをして肥えた土地を得るという術をためしていた。

 それにならってソサノヲも、
みずからの糞尿を田畑にまいて肥やしとしたり、
あぜを壊して水をひき稲を育てる術をためそうとした。

 しかし、うまくゆかずに田畑を汚してしまった。
 ひとびとの食べるものを奪ってしまった。

 天つ神の血を継ぐものとして、
ソサノヲもひとびとのためいさおしを為そうとしてきたのだ。

 しかし、それらはすべて裏目にでてしまい
ソサノヲは数々の罪を背負うこととなった。

 けれどもソサノヲは、
それを母の『クマ』のせいなどにはしたくなかった。

 為さねばならぬ。成さねばならぬ。
 どんな苦しみに打ちひしがれても、それだけは手放さなかった。

「民を導くものならば、ひとびとのために立つべきではないのか!」

 つかみかかるソサノヲに、ツルメソもようやく顔をあげる。
 しかし、その目はソサノヲではなく、壁の棚に向けられていた。
 視線のさきには、吊るして干されている芹の葉があった。

「娘さえ、いればいいというのか? それでもかみか!」

 ツルメソはもう聞く気もないとばかりに、顔をそむけた。
 腹の虫がおさまらないソサノヲは、荒れ屋を飛びだしていく。
 綱をつたって樹を降りるのも、すでに慣れたものである。

 そして夜には、ソサノヲは川の魚をもって荒れ屋に戻っていた。

3 兎

 ひと月もたったころだろうか、
里村の帰りに、スセリは道すがら山菜を採っていた。

 山肌をのぼって、茸を採るというので待っていると、
スセリの身体が空を浮いて、転がり落ちてきた。

 ソサノヲとツルメソが駆けよると、
スセリははらに矢が刺さってぐったりとしている。

 矢に見覚えがあるのは、ツルメソが作ったものだからだ。

『それ、こっちだぞ』

 馬のひづめの音とともに、オロチの一団があらわれた。
 五人組みでそれぞれが弓を携えている。
 かれらは倒れているスセリに気がつくと

「やや、兎ではなかったか」
「惜しいことをした」
「息はあるか?」

 などと口々にきいてきた。
 ソサノヲは、怒りにまかせて飛びかかる。

 しかし、ツルメソのすさまじい力に引き倒されてしまう。
 そのまま抑えつけられて、身動きがとれなくなる。

 もがき暴れるソサノヲに、オロチらも剣に手をかけた。

 だが、顔を隠している弓削のひとりが片腕を失っていることに気づくと、オロチたちはどこか決まりが悪そうに、剣をおさめてしまった。

「篤く弔ってやれ」

 それだけいうと、オロチらは逃げるように去っていった。

 馬の足音が遠のいてしまうと、ツルメソはソサノヲを放した。
 ソサノヲは力まかせにツルメソを殴りつける。

「どうしてその力を奴らに向けない!
お前なら、たやすく討つことができただろう! なぜだ!」

 ツルメソはなにも言わない。
 言うことができない。
 その瞳も、なにも語ろうとはしない。

「娘が射られたんだぞ! それでもお前は――」

 ソサノヲは涙をうかべて訴える。
 ツルメソは、それでもおし黙っていた。
 ふたりの間に気まずい沈黙が流れてゆく。

『わぁは……生けっちょう』

 スセリの細い声が、あたりに響いた。
 はじかれたように、ソサノヲはスセリに歩みよる。

「スセリ! あぁ良かった」
「大きゃん声だわ……」
「いま矢を抜くぞ」
「はよう、やってごせ……」
「良かったな、生きてたぞ!」

 ソサノヲは振りかえると、はっと言葉を失った。

 ツルメソが、顔に巻きつけた布のおくで笑っている。
 目じりに深い皺を刻みつけて、しっとりと涙で顔を濡らしながら笑顔をたたえていた。

「笑っちょうわ……ひどいテテだがね」

 そういうと、スセリも力なくではあるが、笑顔をつくった。

「わぁもテテに似たんだわ」

 ツルメソの皺は、かれがもともとよく笑うことを物語っていた。
 どうして、いままで気づかなかったのだろう。
 ソサノヲは我にかえる。

 天つ神の血を継ぐものは、
ひとびとの暮らしを守り、国を治めてゆかねばならない。

 そうした思いから、ソサノヲもわが道を貫いてきた。
 だからこそ、反乱軍ハタレに組みすることもなく逃れてきたのである。

いさおしさねばならぬ』

 そのために、わずかばかりの望みを抱いて、
父・イサナギよりことづかったこの地へやってきた。

 日の沈むこの地には、災いが満ちている。
 それをただすことが、わが務めだと思ったのだ。

 ソサノヲは「事を為す」ことでしか、身を立てる術を知らなかった。

 だが、ツルメソはどうだろう。
 身体のおおくをうしない、妻をうしない、役目をうしない、
望みを絶たれた彼は口を閉ざした――そう思っていた。

 だが、そうではなかった。
 ツルメソは「つぐむ」ことで、娘の笑顔を守っていたのだ。

 ツルメソが立ち上がれば、きっとおおくのひとびとがつき従うだろう。
 しかし戦いとなれば、おおくのものが命をおとす。

 きっと、かれらだけではオロチを討つことはできないだろう。
 そしていまや、オロチにも、かつての村人が加わっているのだろう。

 たがいに刃を向け合うことは、もはやできないのだ。

 だから、かつてのかみとしてツルメソは、
オロチと村人の間に立って口をつぐんだのではないか?

 ひとびとの安らかな暮らしを想えばこそ、
「事を為さない」ことでひとびとを守るという
いさおしした」のではないか?

 互いに慈しむ父娘をまえに、ソサノヲは打ちひしがれていた。
 守るべきものは、みずからの思いや願いではなく、
ひとびとの「み」なのかもしれない。

 このことは、その後のソサノヲにもふかくを下ろした。

 さほこなる ゆけのそしもり
 つるめそが やどにつぐむや
 しむのむし

ホツマツタヱ 9アヤ

解説

ヲシテ文献は
まだすべてが見つかってはいません。

それぞれが相互関係によって
内容を補完しあうということもあり

ホツマツタヱにも
所々に内容の省略があるようです。

そうした未解明の部分を
想像力で補うことで

ホツマツタヱの世界や教えを
より豊かにとらえることができたらいいな

という思いから
『小説』を書いてみました。

「異文」としているのは
あくまで可能性のひとつであり
解釈・翻訳もたくさんあるからです。

ツルメソは
本文中に一度しか登場しませんが

ソサノヲの転機となった
重要な人物です。

ツルメソによって
ソサノヲはながらく苦しんだ
「シムのムシ」を
「つぐむ」ことができたといいます。

「しつむ(鎮)」ではなく
「つぐむ(噤)」と記されていることが
とても気になりました。

みなさまのご研究の一助となれば幸いです。

(おわり)

覚書き

ご拝読ありがとうございます。

ブログ掲載にあたり
すこし手を加えたり
改行もおおく取っています。

小説は、
読むのも書くのも好きです。

そんな、小説によって
ホツマツタヱのあらたな展望を
開いてゆけたらと思いました。

ホツマツタヱの
解説や論考はかわらなくとも
小説なら読めるというかたに

届いてゆけば
面白いかなと思います。

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