検証誌140号 おふかんつ実9

検証ほつまつたゑ

検証ほつまつたゑ

ホツマツタヱ研究の専門同人誌・
『検証ほつまつたゑ よみがえる縄文叙事詩』

第140号(令和7年8月号)に
掲載していただきました!

本当にいつも
ありがとうございます🥰

今回も
ホツマツタヱをもとにした
『小説』を投稿
しています。

天照大神の父母である
イサナギ・イサナミ
を描く連載の第9回です。

↓前回まではこちらにまとめています。

おふかんつ実
『検証ほつまつたゑ』に連載している 小説「おふかんつ実」の全記事リストです。

(※当ブログでは掲載にあたり
やや改訂したものを投稿しています)

おふかんつ実 その9

《ホツマツタヱ異文小説》

花と穂のとき

イサナミの遺し言を
ココリヒメはかたく守った。

白く細い腕で
イサナミの亡骸オモムロを布で包むと

村の匠たちに
の板を組み合わせた

御櫃ミヒツを作らせて
そこに納めた。

北山川きたやまかわより音無川オトナシガワ(熊野川)へ
船で運んでしまうと

いくつもの村々を通ることとなり
おおくのひとに知られてしまう。

そこで
火の匠カツグチたちの使っている
峠道を越えてひっそりと有馬アリマに入った。

おりしも
カグの花の咲き乱れるころであった。

カグツチの里の名に
違わぬ装いであった。

真っ白な花に染まる有馬は
雪の降り積もるようであった。

その白き雪を解かすように
かがり火が焚かれてゆく。

細戈千足国サホコチタルにあるかれらの故郷では
このようにして御霊みたまを送るらしい。

有馬の浜には
山から突きだすようにして窟屋イワヤがそびえている。

そこにはかつて
人も暮らしたという横穴がうがたれていた。

そのひとつを洞として御櫃ミヒツを納めると
仮殯カリモガリの宮とする。

四十八夜ヨソヤの祀りを終えるころには
花は散り、稲が穂を出すことだろう。

喪祀りをはじめてから
ココリヒメはようやく
残された親族ヤカラへと報せをやった。

イサナミの願いを叶えるには
いちはやく亡骸オモムロを有馬へ運び
喪祀りをはじめなければならなかった。

こうしてしまえば
もうイサナミを他所へやることはできない。

白石

「イサコさん。
 きょうも黒い鳥がおりてきて
 イツキの庭に真っ白な石を置いていったの。
 いくつも、いくつも」

ココリヒメは
イサナミの声が聞こえているかのように話した。

川底で磨かれたらしき白石は
高く昇った陽の光をきらきらと照り返している。

このままゆけば斎の庭は
白石で埋めつくされてしまうだろう。

「白いものばかり、どこで集めるのかしら?」

黒い鳥は窟屋にも留まっている。
こちらも陽の光を浴びて、つやつやと輝いてみえた。

クロカネのようね」

ココリヒメがそういったのは
カグツチの長マフリから玉鋼たまはがねを託されたからだった。

それはあの日に
高窯たかまより取り出されたクロカネである。

黒くただれた姿を見られたくないという
イサナミの言葉を伝えると
マフリはゆっくりとおおきくうなずいて

『なら、こげを、渡してごしなはい……』

と玉鋼を差しだした。

それはいまイサナミの胸元に
そっと納められている。

イサナミの新たな心臓ナカゴとなって
静かに脈打つようでもあった。

カァ、と一羽の黒い鳥がけたたましく鳴くと
黒い鳥たちがいっせいに飛びあがった。

すると、息を切らしながら
男がひとり斎の庭に飛び込んできた。

ココリヒメにとっては
かわいい弟にあたるタカヒトこと
七代ナナヨ天神アマカミのイサナギである。

しかしいまは、衣服も乱れ、髪も逆巻き
その威厳イツはまるでなかった。

「イサコはそこか!」

息をつぐ間もなく
洞へ入ろうとするイサナギだったが

丸い白石に足を取られて
勢いよく転んでしまった。

「見てはなりません、タカヒト。
 これより先へ進むことは、わたしが許しません」

イサナギは起きようとするものの
疲れ切っているらしく
身体がうまく動かせないでいた。

「わが妻に会うことに、姉の許しなどいりません!」

「美しい姿をこそ、覚えていて欲しいと願う
 妻の想いが、あなたにはわかりませんか?」

「もう一度、会いたいと願うヲウトの想いが
 姉上にはわからないのですか?
 ええい、なんだこの白石は!」

起きようとしても白石に手足を取られてしまい
じゃりじゃりと音を立てるばかりであった。

「あなたの想いより、イサコさんの願いです」

「なぜですか」

「妻の願いを、叶えてこその夫でしょう」

「妻と添いとげずして、なにが夫でしょうか!」

「イサコさんをひとりにしていたのは、あなたでしょう」

「わたしはずっと、イサコとともに暮らしてきました」

「いいえ、イサコさんはずっとひとりだったんです」

「姉上は、何を言っているんですか?」

「ここから先も、わたしに言わせるつもりですか?」

「…………」

イサナギは押し黙った。

そうして
かたく握った手を三度、四度と庭に叩きつけた。

やがて這うようにして足を曲げてゆけば
なんとか座ることができた。

「イサコとマフリは、クロカネヤワしたのか?」

「おふたりは、イサオシを残されました」

「そうか。そうか。そうか」

噛みしめるように、イサナギは繰り返した。
だがここで、はたと気づくことがあった。

「残した?
 いま、マフリはどこにいる?」

「あちらに」

ココリヒメが指を差せば
沖合に小さな島が浮かんでいるのがイサナギにも見えた。

「火の匠カグツチの里・
 有馬を見るカミになるといって
 あちらの島の洞に入られました」

「そうか……先を越されたか。
 だったらあの島はマミルガシマ(魔見ヶ島)と呼ぶがいい」

 島にはまだ、人が座っているような影までみえた。

「なりませんよ、タカヒト。
 あなたはこの国の君主キミなのですから」

「夫ひとりで、キミは名乗れません。
 それにわたしとイサコは世継ぎを産んでいます。
 コトはすべて終えているのです。
 わたしなど、もういなくてもいいのです」

「イサコさんとマフリが成した功を
 あなたが継がずにどうするのです」

「いずれ、ハナキネ(ソサノヲ)が継ぐでしょう」

「イサコさんは、あなたのために命を懸けたのですよ。
 それがわからないのですか」

「イサコはなにも話してくれませんでした」

「話さずとも、聞こえる声はあるでしょうに」

「わたしには、姉上のような力はないのです」

ココリヒメは涙を浮かべながら
イサナギの頬にそっと手を添えた。

「あぁタカヒト、
 四十八夜ヨソヤのあいだは待っていてくださいな。

 四十八神ヨソヤノカミヤワしあい、ひとは天元アモトに還るのです。
 それまでイサコさんの御霊はまだこちらにいるのです。

 どうかそれまでは、
 イサコさんに恥をかかせるようなことはなさらないで」

「姉上、わたしは悲しむためにきたのです」

「キミなればこそ、恥に触れてはなりません」

「まだこちらにいるのなら
 わたしの声が聞こえるかもしれない!」

「どうか、どうか」

「わたしはもう一度、イサコと話しがしたいのです」

「なりません、なりません……」

「わたしは、イサコの真の心が知りたいのです」

「…………」

イサナギは立ち上がると、衣服についた砂を払って
襟をただし、帯をかたく締め直した。

そうして
頭にしてあった黄楊ツゲ竪櫛たてぐしを抜き取ると
乱れた髪をときすかした。

やがてイサナギは
竪櫛の端の歯を一本だけ手折たおると
ふたたび頭に挿して髪を留める。

「姉上、火をお借りします」

洞はせまく
かがり火をもって入ることはできそうになかった。

そこでイサナギは黄楊櫛ツゲクシの歯に火をつけて
手灯りとしたのだった。

クシの火は、奇霊クシヒとなって
 わたしの道行きを照らしてくれるでしょう。
 そして黄楊ツゲの木は、わたしの想いを
 イサコへとツゲてくれるでしょう」

そういうと、イサナギは洞の内へと入っていった。

そこで愛しい妻イサナミと、ふたたび会った。

イサナミの身体は
うちより湧き出ずるウヂの虫がたかり、見る影もなかった。

あの美しかったイサナミが、
もはやイサナミかどうかさえわからないカタマシとして
膨れあがっている。

ウグメく白き虫たちのなかで
玉鋼だけが黒く輝いてみえた。

「いなや!」

心を決めていたイサナギだったが
堪えきれずに声をあげてしまった。

顔をしかめて、そむけて、
逃げるように洞から出てきてしまう。

「あぁ、許してください、イサコさん」

嘆く姉ココリヒメを振り返ることもせず
イサナギは殯宮モガリノミヤを飛び出した。

そうして浜辺まで走ってくると、そのまま吐き戻した。

七里の浜

ぐるぐると頭のなかが回っている。

思えばはじめてイサコにあった日も
息があがってしまい、浜辺に倒れていた気がする。

あのときにわたしは
イサコと夫婦になることを告げたのだった。

ああ、わたしはあのときから何も変わっていないのだな。

七里もあるという砂浜には
南から吹く風を受けて高波が寄せている。

夏の盛りにはまだはやく、肌寒い。

「逃げているのか、イサコから」

駆けてきた馬は、殯宮に置いてきた。
取りに戻ることはもうできない。

足取りは重く、胸は苦しいばかりだが、
殯宮からすこしでも離れようとしていることに
自分でも驚いてしまう。

紀州キシヰの国をひらいたのは
イサナミと静かに暮らすためであった。

けれどもわたしは
鉱石アラカネに心奪われて、シヰに目が眩んだのだろうか。

シヰを満たして
父母タラ[男女]が手を取り
ヤワし合ってゆくのが

アワウタにも詠われている
「シヰタラサヤワ」である。

わたしにはこれが、できなかったというのだろうか。

「アカハナマ…イキヒニミウク…フヌムエケ…ヘネメオコホノ…
 アカハナマ…イキヒニミウク…フヌムエケ…ヘネメオコホノ…
 アカハナマ……」

歌い終わることのないアワウタを
幾度も繰り返しながらイサナギは
浜辺を歩いてゆく。

汚い、と思ってしまった。

会わなければ、と思ってしまった。

そう思ってしまったことが
ただ悔しくて情けない。

ウヂはイサコの亡骸オモムロを喰らい
やがては土に還してしまうだろう。

そうして虫たちは
タマシヰを解いてしまうだろう。

それまでは
魂は緒に繋がれてまだ近くにいるはずだ。

そんなイサコの御霊と
話しをしたいと思ったのだ。

しかしながら、
なかば朽ち、なかば骨となったイサコを前にしたとき

わたしは、顔をしかめて逃げ出すことしかできなかった。

おそろしかったのではない、
そうではない、そうではないはずだ。

わたしは、わたしはただ……

「イサコにまだ、生きていて欲しかったのだ……」

高波が寄せて、
イサナギの涙も咽ぶ声もみな、かき消してしまう。

会いたい、会いたいと叫ぶイサナギの悲しみは
シホサワへ揉まれて、散り散りとなる。

黒い鳥

カア、という鳴き声とともに
一羽の黒い鳥がイサナギの肩をひっかいていった。

「いたたっ! なにをする!」

すると黒い鳥は、またしても鋭い爪で襲いかかった。

「ええい、やめろ!」

泣きはらした顔のまま
黒い鳥をふり払おうとするのだが
今度はくちばしで噛みついできた。

「やめろ、やめろ!」

黒い鳥は、イサナギを激しくつついてくる。

たまらずイサナギは、浜から森へと逃れていった。

黒い鳥はそれでも追いかけてくるので
イサナギはさらに森の奥へと逃れていった。

山あいまで追い立てられてゆけば
見覚えのあるイワオがあった。

六代ムツヨ天神アマカミのオモタルとカシコネが
紀伊半島ソサを治めたときに築いた行宮カリミヤの跡である。

七代・天神のイサナギとイサナミは
弥山ミヤマから音無川オトナシガワをくだった日

高野宮たかのみやで祀っていた『ツルギ』を
紀伊半島ソサを治めた物実モノザネとしてここに納めていた。

それは
原見山ハラミヤマ(富士山)でみた火の玉(隕石)の
そのなかにあったクロカネで作った『剣』である。

イサナギは巌に逃げ込むと
戸を閉ざした。

黒き鳥はまだあきらめずに
カアカアと鳴いている。

山あいは日が落ちるのもはやく
行宮カリミヤは暗かった。

イサナギは小さなふたつの鉱石アラカネを取りだすと
それを打ち付けて火花を起こした。

その火を
ほぐした麻にうつして火をおこす。

それをふたたび黄楊櫛ツゲクシに灯してから
行宮カリミヤの奥へと入っていった。

大岩のタナのうえに『剣』は寝かされていた。

それはどこか、さきほどみた
イサコの身体が美しく蘇ったようでもあった。

ともすれば、これまでのことは
すべて夢だったのではないかとも思えてきた。

「あぁ、イサコは朽ちゆく身体を蛆にあたえて
 蘇ろうとしているのだ。

 ならばわたしも
 この『剣』でわがぎ、恥を濯いだならば
 またふたたびイサコに会えるかもしれない」

そういうとイサナギは
棚岩にのぼって『剣』を手に取り
わが身を横たえた。

「この足を、わが『シヰ』として捧げよう」

イサナギは『剣』を振って、みずからの足を斬りつけた。

じわりと浮かんでくる血潮に
イサナギはおおいに喜ぶと、続けざまにこう叫んだ。

「イサコ! わたしはいま、お前に会いにゆくぞ!」

そうして気を失うように、大岩に倒れ伏した。

いさなぎは おひゆきみまく
ここりひめ きみこれなみそ
なおきかず かなしむゆえに
きたるとて ゆづのつけくし
おとりはお たひとしみれは
うぢたかる いなやしこめき
きたなきと あしひきかえる

ホツマツタヱ 5アヤ

(つづく)

解説

ヲシテ文献の空白部分を
想像力によって補ってみようという小説企画です。

「異文」としているのは
あくまで可能性のひとつということです。

今回は
イサナギが「足ひき」帰る場面です。

イサナミの墓所といわれる
花の窟神社を葬送の地としており

イサナギはそこから
元つ宮(熊野本宮大社)へと帰るため
七里御浜を歩いてゆきます。

けれども黒い鳥に追い立てられて
森のなかへと入ってゆきました。

三重県南牟婁郡紀宝町には
「古神殿(こしんでん)」という
謎の岩窟遺構があります。

神内(こうのうち)神社の本宮ともいわれており
イサナギ・イサナミの降臨伝承も残っています。

今回はここを
「神往き(黄泉下り)」の聖地としてみました。

「黒い鳥」とは「烏」のことです。
けれども「カラス」と命名されるのは後のことなので
ここではまだ呼び名がありません。

烏は腐肉を食べることから
死と再生の象徴ともいわれるのですが

そうした「忌み鳥」だったから
呼び名がなかったのでしょうか?

また
「濡烏(ぬれがらす)」や
「烏羽色(からすばいろ)」という言葉は

女性の美しい黒髪をあらわす言葉
だといいます。

烏とは
女性と結びつけて考えられる存在
だったようです。

おなじく
「蛆」も死と再生の象徴といえます。

身体の「内」から湧いてくる(ように見える)から
「うぢ」というのでしょうか。

イサナミの心の「内」を知りたいと
「神往き」を行ったので
「神内」神社なのかもしれません。

「きたなき」は
「段(きだ)無き」と読むこともできるそうです。

「ディテール(Detail)がわからない」くらい
「無茶苦茶」になっている様のことを
「汚い」といったのでしょうか?

「あしひき」は
「足曳き・悪退き・葦引き」など複雑な意味があり
後には枕詞にもなる重要語句です。

足を曳きずるくらいショックを受けたのか
ショックを受けて足を退いたのか諸説はありますが

いずれにせよここでは
「足」の意味で使われています。

「おひゆきみまく」には
「後追いをして身罷ろう」の意味が掛けられており

「これなみそ」には
「これはイサナミの言葉です」の意味が
掛けられているようです。

だからこそ、
特殊な助詞の使い方をしているのでしょう。

みなさまの研究の一助となれば幸いです。

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おふかんつ実
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